番外編(白い巨塔批判)
昔日誌で書いていた「今週の白巨」の再録です。

10月25日(土)

財前先生の講義風景があります。たくさんの白衣を着た学生(?)、医師(?)に手術の講義をしています。 通常大学のあのような臨床講義は5年生か6年生で行われると考えられますが、一般にはクラスの学生のみが対象で、 ほかの科の医師などは普通入れません。教授が退官する時の最終講義はまさにあのような雰囲気ですが、ちょっと 違和感ありましたね。

白衣は診療の時に着るもので授業の時には着ません。すごくシワが寄りますし、ばい菌が付いているかも知れないので汚いです。
財前先生は東教授に対し、やはり態度が大きいと思います。教授というのは退官近い場合、年齢は60代半ばです。 それに対し財前先生は40歳(医師歴15年程度)と非常に若く、いくら手術が出来るとは言え、根性あると言わざるを得ません。 中曽根さんと小泉さんみたいなものです。

教授の権威とは何でしょうか。医学部の教授は国立の場合は国家公務員であり、給与もその基準に準じて支払われます。
従って給料がものすごく良い訳ではなくお金に執着するのなら、ほかの部署の方が良いでしょう。 では何が権威なのか?それは医局の人事権などを一手に掌握し、医局員の生活の全てを握っているということに 他なりません。また、学会などでも名前が売れれば学会の会長や座長を務め、さらに研究費などを国から引き出す ことも容易になってきます。さらにそうなると医局の業績も上がり、権威ある医局として認められることになるでしょう。

よく言われることに教授などに手術をしてもらうと百万単位の謝礼がいるという伝説があります。
事実謝礼という習慣もあったとは思いますが、あまり考えなくて良いと思います。謝礼をもらおうがもらうまいが 手術を全力で行うことには変わりありません。

昔、私が研修医のころ、主治医(執刀医ではない)をしていて患者さんのおばあちゃんにそっと白衣のポケットに 包みをもらったことがあります。研修医はアルバイトなしではやっていけないくらい貧乏なので、一応お断りしつつも 内心は少し嬉しく、小走りに医局に帰って開けてみたところ「おまんじゅう1個」だったという事もありましたねえ。
かわいいでしょ。患者さんも、若い医者も。


10月27日(月)

もう一つ「白い巨塔」の話です。
財前助教授は相当立派なおうちに住んでますし、黒木瞳みたいな美しい女性ともおつきあいしているようです。
国立病院の助教授の給料というのは考えているよりずっと安いです。もちろん、財前マタニティー クリニックがバックについていますので、生活に困ることはないでしょうし、お家の心配もないでしょうが、 新地のトップクラスの女性を自由に出来るほどのお小遣いはどうやって捻出しているのでしょうか。 昔の「白い巨塔」では花森ケイ子は安アパートに住んでいて、それなりにリアリティーがありましたが、黒木瞳嬢は高級マンション 住まいのようです、ママクラスになると助教授ごときからお金とかもらわなくても良いのかも。
同期の里見先生は3LDKくらいのアパート住まいですね(官舎かも知れません)。
子供も大きくなってくると環境とかも考えて、もう少し無理をしてもこぎれいなマンションくらい買った方が良いかとも思いますが、 それはまあ個人的な問題です。

国立病院の医師は国家公務員ですので、アルバイトは出来ません。従ってどこかの病院に手術に行ってアルバイト料をもらう訳にもいかず、 結局は自分の給料はほとんど家に入れることなく自分で使っていることになるのでしょう。公務員医療職で一番等級が高くても 60万円くらいが限度ですので、助教授クラスだと40ないし50万円の給料と考えて良いでしょう。
財前先生がひと月に自由に使えるお金は給料と税金のかからない謝礼(不定期)くらいと言うことになります。 ただ、財前先生は財前家の養子で、発展家の西田お父ちゃんにもかわいがられているようですので、お小遣いくらいもらっているかも知れませんね。

前に「振り返れば奴がいる」という織田裕二主演の医学ドラマがありましたが、手術室なんかのリアリティーでは「白い..」がずっと上です。
切り取った組織を出す時の仕草や疲れた医師が屈伸運動をするところとかもリアルです。 感心したのは、手術中に財前先生が何気なく言った「エアコンちょっと下げて」というせりふです。普通演出では考えつかないと思いますが、手術中には よく使う言葉の一つです。


10月31日(金)

財前先生、食道がんの手術中、助手が血管を損傷して冷や汗をかきます。
助手のミスで患者が死にかけたのですから普通なら激怒するところですが「みんな、よく頑張ってくれた」と逆にねぎらいます。 財前先生なかなか人間が出来ていて、この助教授ならついて行こうという教室員も多いことでしょう。

教授選でお金が舞い散るかどうかは知らないとして、手術中の描写はなかなかに良く出来ています。糸結びの手元などは、もし俳優さんが行ったとすれば 相当練習したに違いありません。
胸腔穿刺するときクーパーでシーツを切りますが、その下の皮膚もちゃんとイソジン消毒していたこと、穿刺した動脈血もサチュレーションが 低下しているため、どす黒い静脈血色をしているのもなかなかに芸の細かさが出ています。
今回はほんの小さなことしか気が付きませんでした。

まず、財前先生が手術室に入ってくると看護師が手袋をしてくれます。手袋は自分ではめることが多いですが、施設によっては看護師さんがやってくれますので、 良しです。その後感染防止用の眼鏡まで掛けさせてもらってましたが、なぜ自分で掛けなかったのでしょうか。眼鏡は不潔(外科用語で滅菌してないこと) なので、手洗いする前に掛ければよいし、助手たちはみんな自分で掛けています。その証拠に助手たちは眼鏡が汗でずり下がらないようにテープで眼鏡を 止めています。まさかここまでは看護師さんもやってくれません。怒られます。
眼鏡ってちょっとでも変なかけ方をすると気持ち悪いですよねえ。人に掛けてもらうと、つるの先をだいたい耳の穴に入れられます。耳も痛いし。

術中かなり出血したようです。それにしては術衣に血があまり飛んでいないですね。映像のリアルさよりグロさを抑えたのだろうと思いますが、 手袋も術衣も結構きれいでしたね。
今週もなかなか良く出来た映像でした。昔は医学ドラマには結構笑ったものでしたが、最近は侮れません。


11月7日(金)

さて、今週は手術シーンがなく、つっこみにくいのですが、一つ二つ。
教授の奥様方がお集まりになって、「ざーますわ」なんて言うのはちと時代錯誤的ではありますが、それはそれとして。

まず、里見先生、病理に抗癌剤の感受性試験を頼みに行ったのですが、まず病理学教室に直接行ってはいけません。 伝票ださないと、伝票。
えらく遅くまで教授の大河内先生が居残って実験しているのも変です。だいたい、里見先生にしても大河内先生にしても正義の味方の教授、助教授は実務の仕事しすぎです。

このクラスになると、患者を直接受け持つことはなく、若い医師が担当します。夜、急患で運ばれた東教授夫人の診察までしていますが、浪速大学は人手不足なんでしょうか。
里見先生、何を血迷ったか患者に独断で癌の告知までします。担当医をないがしろにするのもいい加減にしてください。一生懸命現場で患者に向き合っているのは 若い医員なのに、頭の上を飛び越して告知なんぞされたら、明日から担当医の立場がありませんし、患者からの信頼も失ってしまいます。
良い格好もしたいでしょうが、事前にひとこと言ってくださいよ。ひとことぉ。担当医にぃ。髪の毛も切りなさい。(す、すみません、何か昔を思い出してつい興奮しました)
実験にしても患者の治療にしても若い者にもうちょっと仕事を譲らなければ、いつまで経っても若手は育ちません。その点、財前先生は未熟は承知で若手に第一助手 をさせたり、また不始末があってもきちんと術者の責任で対処します。

ただ、VIPの患者さん、退院の時財前先生に執刀してもらったことをすごく喜んでいましたが、術中単純なミスで自分が死にかけたことは知らないのでしょうか。 大学ぐるみで隠蔽したのでしょうか。開胸になっていますので、傷が不自然に大きいのに気が付くと思いますが、うまく言い逃れたのか、それを知っても感謝する度量の大きい患者さんだったかです。


11月14日(金)

今週も手術シーンというより教授選の駆け引きと末期患者がどうしたこうした、ばかりでした。
さて、製薬会社の女性ですが、末期にしては顔色も良いし、IVH(中心静脈栄養)を受けようとしている割には元気にバスに乗って 帰ってしまうという点は見逃すとして、このような形で退院した場合、浪速大学内科学教室の評判は相当悪くなってしまうような気がします。 財前先生が言っていたように患者が苦しんでいたのなら早く手放すのも大事な治療法です。 里見先生、あのまま、手をこまねいて患者を行かせてしまうくらいならもうちょっと早く末期医療の専門病院に転院させるべきだったでしょう。 途中で倒れたりしたら責任問題です。

財前先生、手術が終わって11時からの教授選考会議があっているころ、病院を抜け出して瞳ちゃんの所で良かことをしでかしています。 いくらなんでもそれはないでしょう。この日の助教授は昼からは手術も外来もなく暇にしていたのかも知れませんが、うちの助教授でさえ、そこまで大胆なことは 出来ません。急に呼び出されでもしたら間に合うのでしょうか?途中で中断もつらかろうし。 ほーらやっぱ電話かかったでしょ。急患でも来たら体力もちませんよ。

食堂で看護婦さんと内科、外科の若い医師がよく一緒にご飯たべてますよね。まずあり得ません。
看護婦さんはシフトが違いますので勤務時間がまず合いません。外科、内科の医師もたまたま、同席することはあっても時間帯が全く合いません。 普段は医局で、もさもさ同僚とご飯というのが一般的でしょう。 他科の先生と仲良く一緒にお昼ご飯というのは年に一回あるかないかの出来事でしょう。

私も国立病院で勤務の頃はお昼ご飯は食堂で食べるか、ナースの休憩室に買ったお弁当を持って乱入して食べていました。
医局の殺風景な所で食べるより休憩室の方がお茶なんかも出してくれるし、消化にはよろしいようです。
でもその時間にたまたま休憩に入っていた看護師さんが婦長だったり、比較的経験豊富だった(言い回しは難しいが)場合には消化機能は多少阻害されるようです。


11月21日(金)

手術の前にわざわざ術式を言ったり、「今から○○静脈を結紮する」とか普通は言わないですね。恥ずかしいし。
静脈の末梢側を財前先生が1-0絹糸で結紮しますが、中枢側は東教授がペッツ(自動結紮器)で止めました。 両方とも糸でも良かったかなあ。二重結紮の方が確実ですね。 それ以外は糸結びが若干遅かったのを除いては合格です。
原作でもそうだったのですが、現役の医学部教授が何人も他の医学部の教授選に立候補するものなのでしょうか。
あまり聞いたことがありません。

全国公募というのも珍しいことではないのですが、普通は助教授、講師クラスが他の大学の教授選に立候補し、昇格して就任するのが普通です。 もし、自教室の教授がスタコラサッサと他の大学に行ってしまうとなると残される医局員は大混乱して「俺らは一体どうすればええねん?」てな具合に急に関西弁になったりします。。

東教授が推薦する石川大学の 菊川教授は弱冠41歳。石川大学においてもせいぜい数年前に教授になったばっかりじゃないでしょうか。(30代の医学部教授というのは あまり見たことがありませんが)
石川大学でも教授選があって、この若い教授が誕生したわけですが、、それがさっさと浪速大学の教授に立候補するなんて学問は出来るが、母校にたいしては 相当義理を欠いていると言わざるを得ません。

菊川先生、退官までは25年もありますので、首尾良く東先生の計画通り浪速大学の教授になったとしても、すぐ東大教授を狙って辞めちゃう可能性もありますので、 要注意です。

クラブ「アラジン」(ここばっかりしか行きませんねえ。少し違う店も開拓しましょう。)で黒木瞳ママが「年代物のワインでも開けましょ。」と言って 値段も言わずに1988年のブルゴーニュを開けます。いくら、なあなあの間柄でもお金の面はきちんとしておかないと亀裂が入ります。10万円でも惜しくないと東先生が言っていたので、 それより安いとしてもクラブ価格では相当なお値段でしょう。瞳ちゃんの好きなワインはシャトーマルゴーじゃなかったっけ?

こちとら2000円のヌーボーで喜んでいるのにい。


11月28日(金)

白い巨塔、教授選挙も佳境に入り、いよいよ物語の重要人物、佐々木庸平も登場して緊迫した展開になってきました。
しかし、かたせ梨乃も少し老けましたねえ(ま、そんなことはどうでもよろしい)。

さて、大学病院の外来というのは普通一つの科に複数の診察室があって曜日によって担当する医師が決まっています。 たとえば教授診察は毎週火曜日の第1診察室で行われ、第2や第3診察室では講師とか助手とかいった先生が平行して診察していると言った具合です。 メジャー(外科や内科など)の科では患者も医師も多いため、たくさんの診察室を持っているのが普通です。

さて、佐々木庸平は初診のはずですので、通常どの先生の診察室に回されるかは不明なのですが、 里見先生が受付嬢に一言口添えをしたのか助教授診察となっています。しかも当日食道の内視鏡とバイオプシーまで施行していました。
朝、里見先生が診察室に入るときに挨拶していましたので、庸平さんイヤと言うほど待たされたことでしょう。 助教授診察の日は予約の患者さんも相当多いはずですから午前中に落ち着いて内視鏡などやっている暇などありません。 午後の遅くにやっと入ったはずです。
だから庸平さん機嫌が悪かったんじゃありませんか?

まあ、もしかしたら、その日は助教授の診察日でなく、外来から呼び出されて特別に内視鏡をしたのかも知れませんが、さらっと流しても良い部分に 深〜くつっこむのが本コーナーの趣旨ですので、ご了承ください。

内視鏡で診た感じ、食道癌なのですが、バイオプシー(生検)をして組織検査で確定診断となります。
里見先生、また無理を言います。
「第一外科に写真を持っていって財前に見てもらっておいてくれ。」
おいおい、 いくら助教授の頼みとは言え、一教室員が他の教室の助教授に
「先生に診せておいてくれと頼まれましたのでえ、写真持ってきましたあ。」
なんて、あほ面下げてのこのこ行けるはずもありません。
院内であっても正式に依頼するときには紹介状を出すのが礼儀というものです。
さもなければ医局員に頼まず自分で持って行きなさい。そして髪の毛も切りなさい。
里見先生、勉強熱心で情熱家ではありますが終末期治療にしても女性の扱いにしても最後の詰めが甘いところがあるような気がします。
作り笑顔のかわいい、べったりした妻のいる家庭生活に問題があるのではないでしょうか。(他意はございません)


12月6日(土)

文化系ドラマの様相となってきましたのでつっこみ所少ないです。
毎回思うのですが、やはり時代背景が違いすぎて違和感を覚えます。 だって、医学部の教授って、現在ではあまり魅力あるポストには思えません。
国立病院の教授なんて収入も知れてますし、権力といっても医局内の人事権くらいのモノです。 「多くの人間を引き連れて歩きたいんだ」なんて財前先生言っていましたが、せいぜい教室員数十人くらいでしょ。ついてくるの。
武富士の社長さんなんかの方がよっぽどたくさんの社員をひれ伏せさせていますよ。
医学という神聖なものと権力欲という俗なものが、渦巻く世界を描いたものではありますが、ちょっと 現代にはマッチしなくなってきていますね。
医学が神聖なものではなくなり、権力欲が俗なものではなくなったのかも知れません。
食道癌の患者さんの再検査の日、今度は里見先生エコーしてます。超音波による検査ですが、 このような侵襲の少ない検査こそ先にすべきです。エコーでは所属リンパ節の腫れなどを検索しているんだろうと思いますが、 入院してからでも良かったかなあ。 またその場に外科の助教授まで立ち会っているというのはいかにも豪華キャストです。
浪速大学は内科、外科などの科はありますが、臓器別診療という先端の形態をとっているのかも知れません。 各科の壁に阻まれた医療ではなく、例えば食道癌であれば内科、外科、放射線科、形成外科などが一度に同じ患者さんを診て治療にあたる というものです。
旧来のシステムではまず内科が診て、外科に転科し、・・・・・と面倒くさいものです。 同級生とはいえ、科の壁を突破した里見、財前両先生の連携はすばらしいですね。


12月12日(金)

さて、いよいよ財前先生、教授選に勝ち、来年には教授の椅子に座ることになりました。
12月に投票があっても教授の退官は通常翌年の3月です。急に部屋を変わったりはしないでしょう。いくら何でも。
12月の手術で助教授としての最後の手術ですと言っていましたが、来年は3月までは手術入れてないのでしょうか。 また、通常教授は退官後は名誉教授の称号が与えられることも多く、全く前教授のカラーを一掃するというのは 難しいでしょう。特に学内の助教授が教授に昇進した訳ですのでしばらくは今までのカラーで行ったほうが 学内の風当たりも少ないのではないでしょうか。 最初からあんまり波風を立てないようにした方が賢明ですよ。財前君。

さて、佐々木庸平の手術です。
まずこのドラマ全体の大きなポイントとなるのが肺への遠隔転移の有無です。将来裁判でこの点について争われるので 注意深く見ておきましょう。
手術当日というか手術室に既に入室している時間に里見先生、あわてて財前先生のところに来ます。 肺への転移の疑いがあるとのことです。「転移があれば手術は無駄になる」って言ってました。
ちょっと待ってよ里見さん。この前薬屋さんの末期癌の手術を財前先生に頼んだ時は転移があっても主病巣を切除して延命を計りたい、などと 言っていたじゃないですかあ。
それより最初内科で診たんでしょ。 CTくらいもっとちゃんと見てください。
外科の若い医局員が CTを見てはっと気がついたのが最初だとはお粗末すぎます。 大体どうしてあんなに早く外科の転科させなくてはならなかったのでしょうか。里見先生、手術手術としか頭になかったので 必要な検査もすっ飛ばしてお友達の財前先生に尻を持ち込んだというのが真相でしょうか。 内科で診て食道癌の診断がついているわけですから CTは内科で撮ったと考えるのが普通です。 もし、外科に転科した後CTを撮ったというのであれば、それはそれでお粗末です。 少なくとも転科までには多少時間はあったのですからもっと精査するなら MRIでも気管支鏡でも出来たはずです。
もし、十分な検査をしていないことで今後責められたとしても内科の手落ちもなかったとは言えないのではないでしょうか。
里見先生の熱心な態度はわからんでもありませんが、ちょっと抜けている点が多すぎます。
こんなことでは浪速大学の1内科もちょっと危ない気がしますね。


1月9日(金)

長らくお待たせ致しました。白塔コーナーです。新年になって第二部が始まりました。長いだけにつっこみ所満載ですが、全部は書けないのが残念です。

晴れて教授となった財前先生、国際学会での講演とライブの手術を引き受けます。医師免許は国際免許ではないので、外国での医療行為というのはかなり制限されます。医師として留学していても他の国では研究が主となり、実際の医療行為は、その国の医師免許がなければできないのが普通です。財前先生がアメリカかどこかの医師免許を持っているとしたら可能であるかもしれませんが不明です。

このようなケースの場合、医師免許の制限がどうなのかも良くは知りませんが、こういったライブに外国から招かれ難しい手術をするとしたら、やはり相当に名誉なことではあるでしょう。(原作にはありません)

招待講演などはよくある話ですが、自分の講演のスライドくらいは自分で用意しなさい。飛行機に乗る直前に渡されても不安でしょう。確認してみないと。変な内容だったら恥をかきますよ。

私のもといた教室の助教授は北海道の学会にスライドを忘れて、教室員に飛行機で届けさせたことがあるという豪快というかオマヌケで憎めないお方でした。

まあそれはそうと、その外国の患者は良く承知しましたよねえ。見ず知らずの医師に診せるの。しかも術中診断が誤っていたとか言って術式まで変更だあ。何やってんだか。インフォームドコンセント、どっかに飛んでけ〜〜。

壮行会がまたいけません。国際学会に出るくらいでいちいち医学部長まで来て壮行会をやっていたのでは年中壮行会だらけです。国立病院なんだから予算縮小しなさい。

また、壮行会の最中に患者の容態が変わりますが、このような場合でもよっぽどのことがなければ教授が直接見に行くことはないと思います。(主治医、指導医がしっかりしていれば)。この佐々木庸平の場合、いかにも医師と患者の信頼関係が出来ていなく、また故意に患者側の敵意を煽るような振る舞いが多すぎ、これでは訴えられても仕方ありません。今はやりのドクハラにあたるかもしれません。

内科の里見先生もCTを撮ることばかりしか言いません。診断も大事ですが、現時点での呼吸不全を何とかするのが先決ではないでしょうか。泣いてる暇があったら髪の毛も切りなさい。助教授なんだからあ。

財前先生の自信も良いのですが、患者にもしものことがあったら責任問題になるのはわかると思います。四の五の言わず「佐々木庸平が急変です」とか「危篤です」とか言えば我が身かわいさに必ず病棟に飛んで帰るはずです。

まあ、この辺は小説ですので割り引くとしても、実際にこれほど患者-医師の信頼関係が確立してない手術は考えられません。実際の医療現場ではもう少し安心して良いと思います(願います)。

財前先生、教授になったは良いけれど助教授を含め、若い教室員の教育をしっかりしなければいけません。自分の言うことだけは良く聞くイエスマンではなく臨機応変な対応を取れる医師を育てないと、しょっちゅう電話がかかったり、若いのが来たりしておちおち飲みにも行けませんよ。


1月16日(金)

佐々木庸平が癌性リンパ管症による呼吸不全で死に至ります。(癌性リンパ管症とは癌細胞が肺のリンパ管に詰まった状態のことです)

柳原医師(新米の担当医)は教授の言うことを聞いて抗生剤の投与を続けますが、肺炎ではないので効きません。種類を換えて投与を試みますが、効きません。誰かに言われなくても他の治療を試みるか、早い段階で検査を行うべきでしょう。財前教授が帰国して、この医師を「馬鹿の一つ覚えのように抗生剤を投与するばかりではなく、状況が変わったら臨機応変に対処しろ」と叱責しますが、まさにその通りです。教授は執刀はしましたが、術後の管理は担当医をはじめとするスタッフがきちんと行うべきです。いくら教授が言ったとしても、患者が亡くなっては自分も窮地に追い込まれるのは明らかです。助教授も講師も研修医もこんな状態なら財前先生も先が思いやられます。

里見先生も、のこのこ庸平の葬儀にお出かけですが、自分だけよい子になろうとしてはいけません。ご遺族の感情を逆撫でするだけでご供養にはなりません。ここは財前先生を売ってでも自分は裁判沙汰にならぬよう工作でもした方が得策では。


1月23日(金)

おいおい、それはないでしょう。カルテの改竄にもほどがあります。カルテの記載事項を訂正するときは、必ず二本線で消して書き直します。修正液を使うなんてことは考えられません。だって誰が見たって改竄でしょうに。本気で改竄するんならページ丸ごと変えなきゃねえ。

病院側の弁護士も弁護士です。今どき稚拙な手段でカルテの改竄を指示する弁護士がいたら会ってみたいものです。しかも日本弁護士会の副会長の事務所の人だそうです。また正義の味方の弁護士はイケメンの貧乏人、悪の手先はエリート風というステレオタイプの配役はいかがなものでしょうか。

いくらデフォルメしていると言っても、こんな時代錯誤の大馬鹿医者や馬鹿弁護士が出てくるドラマ(面白いんですよ、私的には)を世間は一体どのように受け取っているのでしょうか。「ふむふむ、やっぱ大学病院の医者は権威を盾にした悪い奴ばっかりだのー。カルテまで書き直したりして。。。」って思っているのでしょうか。それとも「まさかいくら何でもこんなことはドラマの中だけでしょ。」と思っているのでしょうか。

事実はその中間なのです(それも怖い)。


1月30日(金)

いよいよ舞台が法廷に移ってきました。1回目、2回目の証人尋問でまず、佃医局長と大河内先生が出廷します。医局長と教授ではちょっと格違いで佃先生がかわいそうです。原作では大河内先生はたしか財前教授の手術は完璧であったことにも言及したと思いますが、記憶違いかもしれません。ただ、転移があれば必ず手術以外を第一選択とするという言い方は若干誤解を招くのではないでしょうか。いつか製薬会社の女性社員が末期癌で苦しんでいる時はとにかく元病巣の減量手術をということも言っていましたね。
大河内先生も今回は多少感情的になっているようですが、もう少し冷静になって頂きたい。
手術の上、CCD+5Fuとか化学療法で叩くとかの方法もないではないでしょう。癌の治療は常に転移、再発との戦いです。元病巣がマクロで切除しきれたからと言って一生安泰と考えている医師はいないでしょう。その認識の上で術後どのように対処したかが問題となるべきです。

また、佃医局長にしても柳原きのこ医師にしても、何しろ被告側の証人に迫力がありません。弁護士は優秀と言うことですので、もう少し事前に予定質問のリハーサルをするとかしとかないと勝つ裁判にもみすみす負けてしまいます。本っ当、財前教授も医局の人材の不足には泣かされますね。また、この弁護士さん、原告側の証人、里見先生の自宅まで行って出ないように言いますが、これは法的には良いことなのでしょうか。後で明るみに出ると相当やばいような気がしますが。

読者の方から「財前先生の白衣はアイロンがぴしっと掛かっているのに里見先生のはしわしわなのはなぜでしょう?あの奥さんならきちんとアイロンくらい掛けそうなのに。。」というご質問です。

国立病院の場合、白衣も国からの支給品です。ただ、1年に2着ほどの支給ですので、汚れたら洗濯に出してその間はもう片方を着るという生活です。そうすると1週間くらいは同じ白衣を着ることになり不潔っぽいですね。ですからちょっとおしゃれな医師は自前で何着か白衣(Kansai Yamamotoのとか)を持っていて、これを着回します。クリーニングも医局のボックスに入れれば勝手にやってくれますのでわざわざ自宅に持ち帰ることもありません(血とか付いていれば汚いし)。あまり汚らしい白衣を着ていることは患者さんに対しても失礼だし、ベッドフリーの研究者ならともかく、あまりお行儀は良くありません。里見先生の白衣はシワがよっているだけで不潔ではなさそうですので白衣の素材が違う(綿か何か)のでしょう。最近のはシワも寄りにくく出来ています。

いずれにせよ里見先生は学究肌で着るモノなどには頓着しないというイメージを出すための演出でしょうが、髪の毛とかは長いんだし顔もせっかく江頭2:50に似ているんだから、この人の方がこじゃれた白衣が似合うのではないでしょうか。黒のタイツと。

蛇足ですが聴診器も家に持って帰らないでほしい。どんな感染症の患者の診察をしたかわからない診察器具はなるべく持ち帰らない。大事な一人息子やくねくね奥さんにうつるよ。自宅用に聴診器の一つくらい、けちけちしないで買いなさい。


2月6日(金)

法廷モノっていうのは大好きでいろいろ読むのですが、今回のは法廷モノにしてはひねりみたいなものが少ない気がします。もう一つ紅会というような前時代的奥様集団があり、「大学を守りましょう!」なーんて言っている脳天気な大学があったらもう一回入学してみたいですが、まあ、それも良しとしましょう。

財前先生の手術の腕の良さを際だたせるために後腹膜腫瘍の患者さんを持ち出してきました。ちょっと気になったのがまたまた里見先生のひとことです。「癌なんでしょうか?」「いえ、癌ではなく肉腫だろうと思います。」

待ちたま〜えっ。素人相手にそんなこと言ってはだめでしょう。先生。上皮性の悪性腫瘍を癌と言い、非上皮性の悪性腫瘍を肉腫と言います。ですから、言っていることに間違いはないのですが、いかにも悪性度が少ないように言いくるめてませんか?それから臆面もなく財前先生に頼むのはもうおやめ。見てると頼むばっかで自分はちっとも頼みを聞かないですよねえ。君は財前先生を同級生と思って気軽に頼むばっかしですが、少しくらいは恩に報いるということもしなければいかんでしょう。

ごるあ〜、金井助教授、何してるの?術中の出血ごときであわてるんじゃない。だいたい教授をしっかりバックアップしなければいけない講師以上のクラスのスタッフが前から言っているように頼り無さ過ぎ。昨日今日出来た医局ならスタッフもそろって無いでしょうが、伝統ある浪速大学でしょ。頑張ってよ。

里見先生、自分が大事な証人尋問に出る日くらい遅刻してはいけないでしょう。そんなことだからついにくねくね奥さんも切れたでしょ。悩むくらいなら最初から安請け合いをしない。

法廷では財前先生の証言のほうが迫力があって良かったですね。ただ術前に転移を疑ったものがいてもいいんです。それを承知で手術したという方がよっぽど心強い感じです。ウソがウソの上塗りをしてにっちもさっちもいかなくなるケースがあります。

教授、最近の古賀潤一郎さんの関連記事を熟読して参考にして下さい。ふられた瞳ちゃんに未練があるのもいただけません。

誰でもありません。


2月13日(金)

早いですねえ、結審。鑑定人の唐木教授の鑑定一発で決定ですね。原作ではもう少し捻って財前教授に不利な要素なども取り混ぜながらようやく逆転勝訴という感じに持って行っていたような記憶がありますが、やはり2クールでは時間が足りないのでしょう。

しかし、これではこの社会派ドラマの意味が多少薄まるような気がしますが如何でしょうか。こう簡単に原告敗訴では、やっぱりそうか、という感覚が残るのみで患者良い人、医者悪い人の昔からの構図に何ら変わるところがありません。せっかくのリメークですので、もう少し現代に即した仕上がりにして頂きたかったのものです。まあ、今後の展開に期待しましょう。

しかし、裁判も早いが里見先生の退職も早けりゃ、家庭の修復も早い。財前先生も瞳ちゃんとの仲直りも早いねえ。アウシュビッツとかは一体何だったんでしょうか。瞳ちゃん途中降板か?とかいろいろ詮索した割には意味わからんでした。

こらー、里見い。いくら自分が気がないったって大衆食堂に教授令嬢を連れて行くなって。気がないのをそれほどまでに露骨に表現できるとは。ストレートにもほどがあります。私でももうちょっとこじゃれた店に連れて行きます。おまけに傘まで借りて帰る始末です。佐枝子さん、大盛りカレーを注文した時点で気が付きなさい。ずーっと待ってたんでしょ。雨の中(しくしく)。

よ〜く考えよ〜♪お金も大事だよ〜♪


2月20日(金)

どんどん原作から遠ざかってしまってコメントしづらいです。

里見先生ついに首になってアパートを出ます。優しい財前先生が現れ高度がん治療センターが竣工した暁には里見先生を迎えたいとまで言ってくれました。素直に受けなさいよ。裁判では不利な証言をしたにもかかわらずこんな良い話を持ってきて下さっているんです。
医師としての技量とかを評価してもらっているのであって裏はありません。変にこだわっているのはむしろ里見先生の方じゃありませんか?

弁護士の関口先生も大変ですね。栄養状態が悪いらしいです、今時。着手金200万円では1年はもたんでしょう。佐枝子さんのバイト料も払わなければいけませんし。

どうでも良いことでしょうけど、五郎、花森ケイ子、亀山君子、又一、よし江、禎蔵などの名前ですが、原作をあれだけいじっているんですから多少現代風に換えても良かったのかなあ。ちょっぴり昔風ですよねえ。悪い名前ではないのですが、ハイテク感が若干少ないですよね。

と言うことで今週は手抜きして見てましたので、あまりつっこめませんでした。


2月27日(土)

医師は基本的には診療に手を抜くことはありません。医師性善説のように聞こえるかもしれませんが、患者を救いたい、病気を治したいと思ったら一見無駄のように見える検査まで行いたいのが本音です。検査漬け、薬漬けなどという言葉に表されるように医療費の無駄遣いを助長する検査、投薬は厳に慎むべきですが、もう一つ検査をしなかったばかりに悪い結果を招いたという事例も少なくないのも事実です。

お祭りで買った綿飴の割り箸が喉に刺さって救急外来に受診、ろくな検査もせずに帰して、その晩亡くなったという悲惨な事故がありました。
このような場合、一見して何ともないと判断してもCTとか撮るべきだったかもしれません。(結果、そうしなかったことが裏目に出ました)
夜、当直の技師を起こし、患者さんには長い時間待って頂き、子供なのによけいな被爆までさせます。でも結果的には検査漬けと言われるのを覚悟しても撮るべきだったのでしょう。
また、救急病院の当直医師の体制にも大きな問題があるのも事実です。

しかしまあ、こんなことを考えても財前先生は強気ですよねえ。いくら前教授の回診日に手術を合わせるためとは言っても自分で疑問があれば医師ならば再検査をしたはずです。このドラマを見ていると財前先生は能力の限りを尽くして頑張ったんだとしか思えません。人が何を言おうとも自分は常識として炎症性変化としかとらえられなかったのだから仕方ありません。何かアドバイスする人がいても変な意見を言う常識外の人と思っていたような節さえあります。
でも強気なら強気で手術中に妄想にかられてボーっとしてはいけません。信念を持ちなさい。あまり周りの雑音を気にしているとせっかくの外科医の腕も鈍ってしまいます。

何度も言うようですが、この裁判の争点は誤診とか精査云々の問題ではなく、術後の処置と患者さんとのコミュニケーションの問題です。つまり、財前先生を責めるのなら、有能な人材(自分で判断して行動できる人間)を育てていないことを責めるべきです。本当はこれって前教授が悪いんですけどね。

そんなことより今日はちょっぴり冗長な白い巨塔の内容なんかよりもっと重要と言うか驚くべきニュースがありましたよねえ。そうです。宗教法人「釈○会」のことです(今日のニュースの宗教法人「オウム真理教」は別格ですよ)。

財前教授夫人、何と実は教祖夫人になっていました。お相手の会長は100キロとも150キロとも言われるスキンヘッドの教祖様です。白巨は結婚ラッシュで、くねくね奥様も代議士夫人となったばかりで驚いていましたが、その比ではありません。

しかし、どうして教祖様というのはみんな一様に怪しげ(失敬、他意はありません)な感じが漂っているのでしょうか。それをオーラとかカリスマ性とか言うのかもしれませんが、教授夫人もやっちゃいましたって感じです。記者会見も多少宗教がかっていて興味深く拝見しましたが、如何だったでしょうか。
婦人、私の趣味とはちょっと違いますが、いくら何でも相手がジャバザハットでは私も納得がいきません。

おーし、比較してみましょう。

カリスマ性
財力
体重
容姿
学歴
センス
妻の容姿
カラオケ
信者
油度
教祖様
抜群
十分
150キロ
好きずき
大学出
不明
上手
多い
破れ医者
なし
借金はない
よりは少ない
おやじ
大学出
そこそこ
言えない
下手
居ない
かさかさ

あちゃー、勝ってないじゃん。一個も(悲)。


3月5日(金)

原作との違いには驚きますが、まあ、置いておくとして。
私が口を酸っぱくして(そうでもないが)言っていたように、この裁判の争点は誤診などではなく、患者との信頼関係や説明義務(インフォームドコンセント)なのです。今時の医療事情に詳しい弁護士ならこの点をつくのが当たりまえです。もー今どき気づくなって。

それはそうと里見先生は相当な悪ですなあ。だって、前の教授の東先生を法廷にと弁護士に進言したの張本人は自分のくせに結局は佐枝子などに責任を押しつけているようにしか見えません。
里見先生の壮大な浪速大学への復讐劇になってしまえばいっそ面白いのですが。


3月12日(金)

裁判の行方、カンファレンスの議事録や看護師の看護記録で決着といった様相でしたね。国立病院では病棟のカンファの議事録とか取るのでしょうか。少なくとも私の所属した病院ではなかったことです。術前カンファは受持医が病歴、経過から手術計画などをプレゼンし、他の医師からも評価してもらう場です。もちろんこのときには教授も出席しており、あーじゃ、こーじゃ言います。自分の症例のことで頭は一杯ですので、医師が議事録まで取るとは思えません。事務の人や看護師が取るというのも考えにくく(公務員は自分の職務外のことは基本的に行いません)、普通はないことのように思います。

通常、術前に医師が患者に術式その他をお話するときは看護師も同席することは多いです。しかし、この場合も記録は何時に医師がだいたいこのような話しを誰にしたというくらいの記録で、「柳原先生がCTを前に言葉につまる」とかの細かな描写はあり得ません。

いずれにせよ、今時「助かりたいなら手術しかありません」などと言う医師がいないというのがこのドラマの決定的に現実離れした所なのです。「訴えられたくないので助からないかもしれませんが手術以外でも好きな方法を選んでくださって結構ですよお」というのが本音かもしれません。

多少見方が偏っているのかもしれませんが、このドラマの中では終始一貫、里見先生の態度に疑問を感じます。
まず最初に佐々木庸平を診察したときの検査内容、外科への紹介のタイミング、いざ患者の容態が急変しても結局は財前頼みで自分は手を下してないことなどです。自分の頼みばっかり押しつけて財前の頼みは一向に聞いてくれません。この時点で人の良い財前先生も相当頭に来ていたんだろうと思います。「いい加減にしてくれ。もう、お前の言うことだけは聞きたくない」という心境だったでしょう。かわいそうで涙が止まりません。

またいざ裁判になると、今度は敵方です。でないと自分が犯した過ちまでつつき出されます。あまつさえ前教授の東先生まで法廷に引っ張り出し、ひいては職を失わせる結果も招いています。里見先生も職を失ったではないかと言いますが、確かに研究施設は整ってなくてもしっかりした市中病院みたいです。また国立大学の助教授などに比べると多分2倍以上(月収100万は下らないでしょう)の給料に増収したでしょう。

佐々木庸平が内科を受診した時点で手術手術と考えるあまり肺野の陰影を見落とし、また外科への転科を急いだことが、この事件の発端と考えられないでしょうか。良い医師然とした里見先生に比べ、確かに財前先生は人間的には多少横柄なところがあり、自信過剰ではあります。しかし立派な技術を持ち、今までに大勢の患者さんを助けてきているのも事実です。今回はインフォームドコンセントがきちんとなされなかったことが最大の原因ではありますが、このように医師の善し悪しを単に横着とか自信過剰とかお金持ちとか顔が嫌いとかで裁く風潮もいただけません。
もっと言うとこのような今の風潮では腕のない医者でも、愛想がよいとか親切とかいうだけで名医と判断されかねない危険性もあるということではないでしょうか。


3月19日(金)

さて、いよいよ最終回でした。
内容については次回の特別番組の後にコメントするとして、今回はまず、唐沢の演技を褒めるとしましょう。
始まった当初は背が低いとか前の田宮に比べてアクが少ないとか色々言われていました(私も言った)が、演技というのはその役柄が徐々に身に付いて良くなるものなのでしょう。最後はなかなかの演技でした。しかしその上を行くのはさすがの黒木瞳ですね。大女優の貫禄でしっかり唐沢をサポートしていましたね。

ちょうど古巣の教授の退官と重なり、我が医局と対比するのですが、うちの医局は浪速大学に比べるとずっとのんびりしています。もちろん助教授は教授になるべく着々と準備をしているのでしょうが、あんまりどろどろとした雰囲気は伝わってきません(本人の本当のところは知りませんが)。
パーティーの二次会に教授候補の助教授が来たので、「よっ、教授」などとみんなで冷やかしましたが、まだ冷静でした。私の友人が外部から古巣の医局の教授に立候補しています。まあ、勝ち目はないでしょうけど、医局の体制に一石を投じたという意味ではなかなか新鮮な決断でした。

おっと、関係ない話しでした。白い巨塔というちょっと時代がかった小説を現代に置き換えてドラマ化した意欲には敬服します。医学ドラマというのは我々から見ると、とかくお笑いの対象になるのですが、私の目から見ると良くできたドラマだと思います。2クールしかありませんので長大な原作の雰囲気をすべて表現するには短すぎましたが、大河ドラマのように冗長過ぎず、かえって良かったのかもしれません。

また、このようなドラマが出来るのを期待します。


3月27日(土)

特別編は総集編と、その後のエピソードっていうやつでしたね。第一外科には何かぱっとしないアクのない教授が座っていますしがんセンターも市役所風で、死んだ財前先生の無念さがあんまり伝わってくるものがなかったですね。
総集編はよいとして、その後の物語は柳原先生の物語と化しております。彼は一体何年目の医師なんでしょうか。外科にいながら癌の告知も初めて、患者の説明も助教授つきなんて如何なものでしょうか。また法廷で大事な証拠となった看護師の記録を取ろうにも看護師も居ません。一環した方針でお願いします。

癌の告知なんぞ、したくもないしされたくもないでしょうが、癌を扱う医師にとっては避けて通れないことです。患者と医師の間に人間としての信頼感があれば告知は淡々と行われます。あまりウエットな感じでもいけませんしドライでも勿論いけません。

私もがんセンターにいたときは数多くの患者さんに癌を告知してきました。殆どの患者さんが私の2倍も生きておられる人生の先輩です。若輩の医師(私)ごときが生死を諭すなどということが出来るわけもありません。ましてや本人の人生だし医師は神様でもありません。神様でない若い医師ごときが患者の生命の長さや重さを量ったり調節するなどは許されるわけもありません。

事実をありのままに伝え、医師が出来る治療、選択肢、予後をお話するだけです。勿論、勇気づけたりはするのですが、何しろ年上の先輩諸氏です。自分だったら、どこの馬の骨ともわからん若造のに命の話しなんぞされるのはいやでしょ。

私の患者さんは当時60代前半。定年をひかえたお父さんです。
病名は喉頭癌。手術するとすれば喉頭全摘出です。手術すれば声も失います。気管孔といってのど仏の所に穴を空けて、その部分から息をします。においもわからなくなりますし、お風呂に入るときも気を付けなければ溺れます。
このような過酷な手術を受けても癌が根治するかどうかはわかりません。当然術後は抗癌剤の投与も必要です。

このようなケースで医師は一体何を偉そうに言えるでしょうか。しかし、それが医師の仕事です。癌を治しても人を救ってないかも知れません。そのときは大先輩の患者さんの人生観に合わせて自分の考えを淡々と述べること以外に出来ることはありません。

だから多分私たちは癌の患者さんの治療をしながら、すごく多くの医療以外のことを学んで来たんだろうと思います。